サブリース会社から、こんな通知が届いていませんか。
「新築から年数が経ち、周辺の賃料相場と合わなくなりました。つきましては家賃を減額させていただきます」
相場が下がったと言われれば、そういうものかと思ってしまいます。現地に行けない方なら、なおさら確かめようがありません。
ですが、その同じ部屋で、逆のことが起きている場合があります。
オーナーには「相場が下がった」、入居者からは高い賃料
私がサブリース解約をお手伝いしたオーナーさんの話です。地方にお住まいで、物件は都心にありました。
オーナーさんのもとには、「築年数が経って賃料相場と合いません。減額をお願いします」という通知が届いていました。オーナーさんは、言われるまま減額に応じていました。
解約が済むと、入居者との賃貸借契約書がオーナーさんの手に渡ります。そこに書かれていたのは、オーナーさんが認識していたより高い賃料でした。私はその契約書を見て、すぐに違和感を持ちました。
業者が入居者にどう説明して賃料を上げたのかは、私にも分かりません。そこはオーナーに開示されない部分だからです。「物価高で管理コストが上がっているため」といった案内を出していたのかもしれませんし、空室期間があったなら、募集の時点で前の入居者より高く設定していたのかもしれません。
ただ、はっきりしていることが一つあります。
オーナーさんには「相場が下がった」と言いながら、入居者からはより高い賃料を受け取っていた。
相場が下がっているなら、入居者から高い賃料は取れません。取れているなら、相場は下がっていません。この二つは同時には成り立ちません。
差額は、いくらくらいなのか
差額があること自体は、おかしなことではありません。空室のときも家賃を払い、入居者の対応も引き受けるなら、業者はリスクを負っています。そのリスクに見合う取り分がなければ、事業として成り立ちません。
問題は、その取り分が見合う範囲に収まっているかどうかです。まず普通の水準を見てください。
一般的には、満室時の家賃の80〜85%程度がオーナーの受取額とされます。業者の取り分は15〜20%です。家賃10万円の部屋なら、こうなります。
| 金額 | |
| 入居者が払う家賃 | 10万円 |
| オーナーの受取額 | 8万〜8.5万円 |
| 業者の取り分 | 月1.5万〜2万円 |
| 業者の年間取り分 | 18万〜24万円 |
ダイヤモンド・オンラインの記事でも、入居者から10万円を受け取ってオーナーには8万円を払う例が、中抜きの典型として挙げられています。退去のたびにリフォーム費や設備交換費でも利益が乗るとされています。
ここまでは、リスクを引き受けることへの対価として説明がつきます。
問題は、ここから減額されたときです。仮に2割の減額に応じたとすると、こうなります。
| 金額 | |
| 減額前の受取額 | 8万円 |
| 2割減額後 | 6.4万円 |
| 入居者の家賃が10万円のままなら、業者の取り分 | 月3.6万円 |
| 業者の年間取り分 | 43万円 |
入居者側で値上げが行われていれば、差はさらに開きます。
15〜20%がリスクの対価だとすれば、そこからさらに引かれた分は、何に対する対価なのでしょうか。しかも減額の根拠として説明されたことが事実と違うのなら、それはもう対価とは呼べません。
なぜ、こんなことができてしまうのか
サブリースは、業者がオーナーさんから部屋を借りて、入居者に又貸しする仕組みです。業者はオーナーさんにとって「借主」にあたります。
そして借主を手厚く守る法律があります。借地借家法です。
この法律は本来、住む場所を追われる人を守るために作られました。大家さんの都合で簡単に追い出されては生活が成り立たないからです。趣旨としてはまっとうな法律です。
問題は、この「借主の立場」を悪用する会社がいることです。
業者は家賃の減額を請求できます。契約書に「減額しない」と書いてあっても関係ありません。そういう特約は無効とされています。
一方、オーナーさんから解約するのは簡単ではありません。貸主からの解約や更新拒絶には「正当事由」が必要とされているためです。業者側からの解約は、短い予告期間でできる契約が多いにもかかわらずです。
減額は迫れる。解約はさせない。この非対称が、構造の正体です。
住む人を守るための法律が、住んでいない会社の交渉材料になっている。ここが一番の問題だと思っています。
「相場が下がった」は、今日確かめられます
業者が何でも自由に減額できるわけではありません。借地借家法では、減額を請求するには周辺の相場が下がったなどの事情が必要とされています。「経営が苦しいから」では本来通りません。
つまり、入居者への募集賃料が下がっていないなら、減額の根拠は成り立たない可能性があります。
そして募集賃料は、公開情報です。
賃貸ポータルサイトで、オーナーさんの物件の住所や建物名を検索してください。同じ建物の部屋が募集に出ていれば、いくらで出ているか表示されます。空室がなければ、同じ築年数・同じ広さの近隣物件を見るだけでも相場はつかめます。
スマートフォンで5分です。業者に聞く必要も、許可を取る必要もありません。
減額を求められている金額より高い賃料が並んでいたら、それが答えです。
この構造は、現地に行けない場合に成立します。物件を見に行けない、周辺の家賃を知らない。そうなると、業者から届く紙が唯一の情報になります。地方に住んでいて物件が都心にある。この組み合わせのとき、確かめる手段がないという一点だけで力関係が決まります。
裏を返せば、自分で調べた瞬間に、その前提は崩れます。
だから業者は、解約を止めたがる
冒頭のオーナーさんの件で、差が分かったのは解約が済んだあとでした。解約によって貸主の立場が移り、入居者との契約書が手元に来たからです。
つまり解約とは、業者にとって手の内が明らかになることでもあります。だから引き止めます。急に上の人が出てきたり、電話が増えたりするのは、そういう事情もあります。
オーナーさんが特別に運が悪かったわけではありません。国土交通省が2026年6月に公表した最新の立入検査結果では、対象となった168社のうち118社、約7割が是正指導を受けています。是正指導の割合は年々上がっており、3年前の約6割から増え続けています。
指導内容で3番目に多かったのは、契約前の重要事項説明の義務違反(43件)でした。説明されるべきことが説明されていない例が、それだけあるということです。
国土交通省自身も、サブリース事業者については国民生活センターなどへの相談が今も多く寄せられているとして、契約内容の適正化や説明義務の履行状況について監督を強める方針を示しています。
動くなら、早いほうがいい理由
時間は味方をしてくれません。
一度減額に応じると、次があります。多くの契約で賃料の見直しは定期的に行われます。一度通ったやり方は、また使われます。
築年数は待ってくれません。売却を選ぶ場合、年数が経つほど価格は下がります。手取りが減った状態で持ち続けるほど、選択肢は狭まります。
解約には時間がかかります。話し合いから完了まで数か月かかることは珍しくありません。
ただ、一度に全部やる必要はありません。今日できることは、賃貸ポータルサイトで自分の物件の住所を検索することだけです。5分で終わります。そこで見えた数字が、次に何をするかを教えてくれます。
減額の通知が届いているなら、その場で承諾せず、「根拠となる資料を書面でいただきたい」と伝えてください。回答を保留すること自体は、オーナーさんの権利です。
判断に迷うときは、消費者ホットライン(188)や法テラスで相談できます。金額が大きいときは弁護士に見てもらうのが確実です。一人で抱え込まなくて大丈夫です。
参考にした資料
- 借地借家法(e-Gov法令検索)
- 賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(e-Gov法令検索)
- サブリース契約に関するトラブルにご注意ください!(消費者庁)
- 賃貸住宅管理業者及び特定転貸事業者への全国立入検査結果(令和7年度/国土交通省・2026年6月5日公表)
- サブリース事業に係る適正な業務のためのガイドライン(国土交通省)
- 情報弱者をカモにする不動産「サブリース契約」あまりにエゲツない“中抜き”の実態(ダイヤモンド・オンライン/2023年7月19日)
→ サブリース解約の進め方
→ サブリースの賃料減額通知が来たら
→ ワンルームを手放そうと決めたら。「売買も賃貸管理もできる業者」を探すところから

