私は、値下げを提案する側にいました
規模のちがう複数の不動産会社を、内側から見てきました。
売却を担当していた頃は、専任媒介契約なら2週間に1回以上、オーナーさんに状況を報告していました。これは宅建業法で決まっている義務です。
売り出してから1ヶ月ほど経つと、その報告に一言そえます。
「今のところ、こんな手応えです。このまま続けていいですか」
ここで「もっと動きがほしい」という返事が来たときに、はじめて選択肢を出します。
「価格を下げてみますか」
言ったあと、その場でオーナーさんが「問合せが入るようにしたい」と言ったら具体的な価格の相談をします。すぐに答えが出ないオーナーさんには、一旦、考える時間を持ってもらいます。数日後にもう一度連絡をして、そこで下げるか否かを決めてもらう。そういう進め方をしていました。
この順番が大事だと思っています。値下げは、オーナーさんが「今の状況を変えたい」と思ったときに出てくる選択肢です。業者の側から先に出てくるものではありません。
「相場」の一言で、話が終わってしまう
値下げを提案するとき、業者はよく「相場」という言葉を使います。
「今の相場だと、この価格では厳しいです」
この一言は強いです。相場と言われると、それ以上は聞きようがない気がしてきます。数字の出どころを聞かないまま、「そうですか」で終わってしまう。
でも相場は、ひとつの数字ではありません。同じ部屋でも、見る方向を変えると別の金額が出てきます。
不動産の値段には、大きく3つの出し方があります
| 出し方 | 何を見るか |
|---|---|
| 取引事例比較法 | 似た部屋が、いくらで売れたか |
| 収益還元法 | 家賃から逆算すると、いくらになるか |
| 原価法 | 今の物価で建て直すと、いくらかかるか |
原価法は、今の資材費や人件費で計算します。専門家でないと出せません。
同じ部屋でも、どの見方をするかで数字は変わります。ひとつの数字だけで決まる金額ではありません。
家賃から逆算すると、いくらになるか
投資用のワンルームでは、2つ目の収益還元法もよく使われます。買う人が投資家だからです。
投資家が見るのは「この部屋を買うと、家賃がいくら入るか」です。だから家賃から逆算して、出せる金額を決めます。
計算してみます。
家賃10万円、利回り5%を求める買主なら
10万円 × 12ヶ月 ÷ 5% = 2,400万円
家賃が8万円に下がっていたら
8万円 × 12ヶ月 ÷ 5% = 1,920万円
同じ部屋でも、家賃が2万円ちがうだけで、480万円ちがいます。
これが「正解の金額」ではありません。こういう見方をすると、こうなるという話です。
家賃がいくらかで、値段が変わる
ここが投資用ワンルームの特徴だと思います。
価格が家賃から逆算されるということは、今いくらの家賃が入っているかが、そのまま売り出し価格に効いてくるということです。
サブリースが付いたままだと、買う人が見るのはサブリース会社から入る賃料です。解約してから売り出すと、入居者から直接入る賃料で計算されます。手取りが変わる可能性があります。
サブリースを外してから売り出すまでの流れは、こちらにまとめました。
「何を根拠に、その金額ですか」
値下げを提案されたとき、聞いてみてほしい言葉があります。
「何を根拠に、その金額ですか」
これは、遠慮せずに聞きましょう。法律にこう書かれているからです。
宅地建物取引業者は、前項第二号の価額又は評価額について意見を述べるときは、その根拠を明らかにしなければならない
(宅地建物取引業法 第34条の2第2項)
これは媒介契約を結ぶときの価格についての決まりです。ただ、売り出したあとに価格を変えるときも、根拠を示すという考え方は同じだと思います。
答えられる業者は、事例を出してきます。「近くのこの部屋が、この価格で成約しました」と具体的に言えます。収益還元法で計算したなら、想定した家賃と利回りを言えます。
答えられない業者は、また「相場です」と返してきます。そこが分かれ目だと思います。
聞くのは、揉めるためではありません。判断する材料をもらうためです。材料がそろえば、下げるという判断も、下げないという判断も、自分でできます。
3ヶ月という区切りがあります
それでも根拠を言ってもらえないことは、あると思います。そのときのために、知っておいてほしい決まりがあります。
専任媒介契約と専属専任媒介契約には、有効期間の上限があります。
専任媒介契約の有効期間は、三月を超えることができない
(宅地建物取引業法 第34条の2第3項)
3ヶ月より長い期間を決めても、3ヶ月になります。
更新できるのは、オーナーさんが申し出たときです。黙っていて自動で延びるものではありません。
つまり、今の業者に納得できないなら、期間が来たところで考え直せます。契約の途中で他社に相談しに行かなくて大丈夫です。区切りを待てばいいだけです。
だからこそ、最初の1社を決めるときは慎重に選んでください。3ヶ月をあずける相手を決める場面です。
最後に
値下げの提案そのものは、悪いことではありません。反応がない期間が続けば、価格を見直す場面は出てきます。私も提案していました。
問題は、根拠を聞かないまま決めてしまうことです。
売り出し価格・値下げ後の価格を決めるのは、業者ではありません。決めるのは、オーナーさん自身です。じっくり検討し、納得した上で価格を出しましょう。

